2018年1月13日土曜日

AI面接-Senior 2-Jan.13

面接官がAIになる日 「個人の尊厳」どう守る?
2017/11/22 6:30日本経済新聞 電子版
 就職は人生の大事な節目。だがその選考プロセスが人工知能(AI)に委ねられていたら、どう思うだろう。企業の採用の現場では、既にAIを使ったエントリーシートの審査や面接が始まっている。利用が広がればデジタル化されたあらゆる個人情報が、人生の重要事項を決める材料として使われる可能性もある。利便性を享受しつつ、個人の尊厳やプライバシーにどう配慮するか。対応すべき現実は、すぐそこまで来ている。

24時間どこでも面接
 11月5日、日曜日。岡山県在住の大学院生が緊張した面持ちで、スマートフォン(スマホ)のアプリを起動させた。「あなたが学生時代に熱中したことは」「困難をどう乗り越えましたか」など、自宅で1時間にわたる“面接”を受けた。広島県福山市の鶏卵メーカー、アキタの採用1次面接だ。ただ普通と違うのは、面接官がアプリの向こうのAIだったことだ。

 アキタが使ったのは、採用コンサルティングのタレントアンドアセスメント(T&A、東京・港、山崎俊明社長)が10月下旬に運用を始めたアプリ。応募者に対し1人あたり60120問程度の質問を、スマホの画面から音声と文字で投げかける。応募者は自分のスマホにアプリをインストールすれば、時間や場所を選ばずに面接を受けられる。

 面接中の本人の動画や回答の音声はアプリを通してAIで解析される。回答内容だけでなく声音や表情なども総合的に判断し、「バイタリティー」「柔軟性」など企業で必要とされる11の資質を、応募者がどの程度持ち合わせているかについて数値化。T&A社が納入した報告書を基に、企業側が採用の可否を判断する仕組みだ。

 アキタ人材開発室の鈴木寛彩氏は「今回応募してきた学生は、AI分析の結果『対人影響力』と『柔軟性』のスコアが高く、当社のようなシフト職場でうまく周囲と協調できる人材とみて、1次面接を通過させた。当社で必要とする農学部などの理系学生は人を相手にした短時間の面接では良さを十分に把握できないこともある。良い人材の取りこぼしを防ぐツールになると思う」と、手応えを感じている。同社ではこの後、人間による最終面接も実施、最終的な合否を決めるという。今回は秋に応募してきた1人にだけ適用したが、来年度は書類選考後の約100人の学生向けに、AI面接を実施する予定だ。

■採用にかける時間を大幅短縮
 ソフトバンクは5月から書類選考にAIを活用している。同社の採用ではピーク時に1カ月間で数千人、通年では万人単位の応募者がくる。採用企画課の安藤公美氏は「10人で手分けして作文を読んでいるが、負担は大きい。人による評価のバラツキも気になっていた」とAI導入の理由を説明する。

 同社は米IBMのAI「ワトソン」をベースに、これまでに採用を決めた応募者と不採用とした応募者のエントリーシートを何万件も学習させた。自然言語を認識できるAIは、それぞれの特徴を学習し、新たな応募者のエントリーシートとこれまでのシートの特徴を比較して合否を決める。「エントリーシートの精査だけで年間、約680時間かかっていたが、AI活用で時間を75%削減できた」(中村彰太・採用企画課長)という。

 採用へのAI活用は緒に就いたばかりで、今後は増えそうだ。就職情報大手のマイナビ(東京・千代田)が2017年9~10月、上場企業274社に採用へのAI活用について意見を聞いたところ、「AIは選考に利用したくない」との回答は3割にとどまった。複数回答では筆記試験(46%)、エントリーシート(37%)での活用に導入したい企業が多いが、初期段階の面接(8%)、最終面接(1%)での活用を見据える企業もある。

■学生からは反対の声も
 企業にとっては利点が多くみえるAIによる採用だが、学生の間ではまだ慎重意見が目立つ。同社が17年6月に実施した別の調査では、学生約7000人に「AIによる面接・選考をどう思うか」を聞いたところ、56.2%が「反対」「どちらかというと反対」と答えた。

 新たな手法への漠然とした不安も含まれていると思われるが、実は欧米では人権やプライバシーの観点から慎重さを求める動きが出ている。

 欧州連合(EU)では18年5月、個人データの処理や域外持ち出しに関する新たなルールを定めた一般データ保護規則(GDPR)が施行される。クレジットカード情報など本人を特定できる情報が、本人の意に沿わない形で利用されるのを防ぐ目的だ。その規則の中に、「AIなどによる自動処理だけによって重要な決定を下されない権利」が明記されている。関連して、データ分析の結果導き出された(採用不採用などの)結論について、情報の提供者に対してロジックを説明する「透明性の確保」もうたわれている。

 「データが独り歩きし、勝手に人格が評価され、自己像が恣意的に作られるのを防ぐことを、欧州では人権保護の観点から定めている」と、慶応義塾大学の山本龍彦教授は説明する。

 米国では明文化されたルールは無いが、やはり同様の判断を示した最高裁判決がある。16年、米ウィスコンシン州最高裁は、システムがはじきだした結果だけを基に量刑を判断してはならない、との判断を下した。米国では裁判所での量刑や仮出所の判断にシステムによる機械的分析を活用することがある。だが、単純に過去の犯罪歴を人種と関連づけたデータをシステムに読み込ませると、特定の人種の人は再犯率が高い、という結果が出てしまうことがある。

■社会的排除につながるリスク
 「相関関係はあっても因果関係は無いデータを学習したAIで、人の命運に関わる判断を下すと、本人が知らないうちに社会的に排除される決断を受けることになる。そうした判断が、就職、ローンの借り入れなどのあらゆるシーンで重なれば、その人は不利な判断を受け続け、データ分析による監獄を意味する『バーチャルスラム』から抜け出せなくなる恐れがある」と山本教授は指摘する。

 採用活用へのAI導入の広がりを見越し、人材大手のエン・ジャパンは、12月から学生向けにT&A社のアプリを使った模擬面接を始める。エン・ジャパンが東京や関西地区で5店舗展開している、学生向け就職支援施設「プレシャス」の登録学生向けに実施する予定だ。林善幸・新卒事業開発室長は「現在でもアプリは7~8割の精度はあると思う。すべて面接内容を記録できるので聞き間違いや思い込みが無い点や、個人的な好みに左右されない点は、人間の面接官よりも優れているだろう。だが、AIに読み込ませている評価基準が本当に正しいのかどうかについては、まだ検証が必要だ」と話す。

■日本独自のルールを
 米国の例などをみると、AIの精度を上げるために読み込ませるデータを間違えると、社会的な差別につながりかねない危険性もはらんでいるといえる。現状始まっている日本国内での採用の場面では、「AIが振り落としたエントリーシートは、人間の目でも再チェックしている」(ソフトバンクの中村課長)「現時点では、初期の面接だけに使うなど、あくまで補助的なツールとしての利用を奨励している」(T&Aの山崎社長)と、企業側の配慮に運用が委ねられている点が、明文化されたルールや判例がある欧米との違いだ。

 日本では改正個人情報保護法が17年5月に施行され、マーケティングなどに個人の情報を安全に使うためのルールがようやく整ったばかり。欧州の人権保護や、米国の差別撤廃といった社会的、歴史的バックボーンに支えられた議論は起きづらいかもしれない。だが、デジタルデータの活用と個人の尊厳の問題について、日本も実情にあったルール整備を今から考え始めるべきだろう。


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